音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました
『春になって、桜が咲く頃になったら、式を挙げよう』
「え?」
『まだ、正式に婚姻の儀は行っていなかっただろう?』
「はい…」
『こんなあやかしの血が流れるような、陰陽師の端くれで良かったらな』
桜は満面の笑みで頷く。
「黒稜様は、黒稜様です。あやかしだろうと、人間だろうと、私が好きなのは、黒稜様なのです」
桜の言葉に、黒稜はふっと笑った。
『私もそういう桜だからこそ、好きになったのだろう』
桜と黒稜は、寄り添い合って桜の木を見上げた。
まだ蕾すらないこの木が、薄ピンクの花びらを付けるのが待ち遠しくなった。
未来を楽しみにするなんて、そんな日が来るなんて、二人は思いもしなかった。
(いつか、私の呪いも解けて、黒稜様もあやかしから人間に戻れたら…。そんな日が、いつかどうか、来ますように……)
桜はそう、桜の木に祈った。
その日、桜と黒稜は将来を誓い合った。
二人が、ようやく夫婦となった瞬間だった。