音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました
「「いただきます」」
二人向かい合って朝食を取る。
静かな時間だった。
昨日から感じていたが、ここは空気がいい。嫌な気が一つもないのだ。
(もしかしたら、旦那様が清めていらっしゃるのかもしれない…?)
御影家も北白河家と同じく、あやかしを祓うことに特化した家柄だ。家やその周辺をあやかしが近付かぬよう清めているのかもしれない。
(でも、なんだかそれだけではない気がする…)
なんとなくではあるが、桜はそう感じていた。
(うん、美味しい…)
今朝は煮物が上手くできた。温かい里芋を口に入れながら、穏やかな時間を味わっていた。こんなに穏やかな時間はいつぶりだろうか。
ふと桜は、黒稜に気付かれぬよう視線をやった。
向かいで食べる黒稜の表情からは、何を想っているかは全く分からない。ただ黙々と食べ続けている。
(食べてくださっているということは、口に合わないわけではない、のかしら…?)
食に頓着のなさそうな黒稜ではあるから、不味くても気にせず食べているのかもしれないが…。
その日から桜による、家の大掃除が始まった。
毎日お着物を洗濯し、布団を干し、花壇の手入れをする。それに加えて、使われていなかった部屋の掃除も進めていった。