音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました

 雪平家。
 桜も聴いたことのある名だった。

(たしか北白河家と同じように祓いの陰陽師の家系で、お父様とライバル関係にあった家系…)

「北白河 道元!お前の父親に人生を狂わされたんだよ!!」

 桜の父である、北白河 道元は、帝にも認められるほどの大きな力を持った陰陽師である。
 桜が陰陽師の家系の集まりに参加した時、小耳に挟んだことがあった。
 道元が雪平を出し抜いて、帝に近付いた、と。
 その時の桜はまだ幼く、お父様がそんなことするはずがない、と信じて疑わなかったのだが、今となっては噂は本当だったのではないかと思う程、道元は力や権力、地位に貪欲だと思われた。
 力を失った桜を平然と家から追い出したのだから。

 雪平は桜を睨み付ける。

「お前の父親がぁ!!我が家名を侮辱したのだ!!おかげで帝からの信用は失い、陰陽師として格式高かったはずの雪平の名は地に落ちた!!貴様を地獄に送り、次はその妹、そして嫁の文江、その後が道元だ!!!」

 叫ぶ雪平を見た桜は、そこでようやく思い出した。

(この人、この前箱根でぶつかった人だわ…!)

 桜とぶつかって、酷く驚いたような表情をしていた男性。
 その時の桜は、言葉が通じなかったと思っただけだったけれど、きっと雪平は、桜の顔を見て道元の娘だと分かったのだろう。もしかしたら幼い頃に会ったことがあったのかもしれない。

 そうして今日、桜を亡き者にするためやって来たのだろうが、どうして御影の家にいると分かったのだろうか。
< 52 / 105 >

この作品をシェア

pagetop