音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました

「噂は本当だったのだな」
 雪平は桜を指し示した。

「お前、噂になっているぞ」
「え?」
「あやかし屋敷の御影に、売り飛ばされたとな!!」

 確かに御影の家は、いつからかあやかし屋敷だと噂され、敬遠されていた。
 どこからそんな噂が立ったのか分からないが、実際はあやかしなどまったくいない。黒稜が使役しているわけでもない。
 黒稜がうんざりしたように口を開いた。

『陰陽師の力を使って人を攻撃することは、帝の取り決めにより禁止されているはずだ。その禁を破ってまで桜に攻撃したこと、後悔する準備は出来ているのか?』

 黒稜の低く、冷たい声に怯むことなく、雪平はまた笑う。

「御影ぇ、お前も何を恰好付けている?お前も私と同罪であろう!!」
『なんだと?』

 雪平の言葉に、黒稜はまた眉を顰める。

「北白河の娘が、何故陰陽師の力を失い、何故聴力を奪われたのか、まだ分からないのか?」

 続けられた雪平の言葉に、桜と黒稜は絶句した。

「それは御影 黒稜!!お前がやったことだというのに!!」


 桜と黒稜は言葉を失う。

「それは、どういう意味…?」

 桜の小さな呟きに、雪平は饒舌に話し続ける。

「御影 黒稜。お前は何故陰陽師として有名な家系の生まれである北白河の娘が、陰陽師の力も失い、聴力をも失ったのか、疑問に思わなかったのか?」

 黒稜は桜を守るように抱え、引き寄せる。
 黒稜は桜を妻に迎えた日、耳が聴こえないことを確認していながら、その理由について深く聴くことはなかった。

 北白河という陰陽師としても有名な家系の生まれだというのに、桜が陰陽師としての力が使えないことも会ってすぐに分かっていた。
 しかし、それが黒稜と何の関係があると言うのか。
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