音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました
『殺せぇっ!!』
『くっ……!』
鬼の拳により黒稜の結界が壊れ、黒稜は咄嗟に桜を後方につき飛ばした。
「きゃっ…」
黒稜はそのまま、あやかしの力をまともにくらってしまう。
「黒稜様っ……!!!」
血だらけになった黒稜が、片膝をついた。そこに慌てて駆け寄る桜。
(わ、私が、私が黒稜様を止めたから…っ!!)
「なんだぁ、御影の力も大したことはないなぁ!」
血だらけになりながらも、雪平を睨み付ける黒稜。
「早く、治療、しないと…!!」
狼狽する桜に、黒稜は苦しそうに息を吐きながら淡々と返した。
『必要ない、すぐに治る…』
「そんなわけ…」
しかし黒稜の言葉通り、出血は徐々に止まりつつある。確かにそこまで深い傷ではなさそうだが、こうもすぐに傷が治るのはおかしい。
(この前大怪我され時も、黒稜様はすぐに治ると仰っていた…)
桜に心配をかけぬよう、そう言っただけだと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。
桜の目の前で、黒稜の傷が少しずつ少しずつ塞がっていこうとしている。
『この前は傷が深すぎたからな…容易には治らなかったが、これくらいなら簡単に治る…』
陰陽道に治癒の術はない。
しかし黒稜の傷はみるみるうちに治っていく。
桜が目をぱちぱちさせていると、また雪平が笑った。
『ついに姿を現したか!あやかしめ!!」
桜には雪平の言葉が途切れ途切れにしか聴こえなかった。
(今、なんて言ったの?黒稜様を、あやかしと?)