音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました
それから数日が過ぎても、桜の聴力は回復しなかった。
聴力の回復の見込みがないながらも、陰陽師としてはひとり立ちしなくてはならない。
桜と弥生は儀式を受け、誕生日から数日遅れて陰陽師と名乗ることを許された。
しかし、陰陽師となって初めてのあやかし退治の仕事の日。
北白河家は更に衝撃を受けることになった。
一人前を名乗ることが許されたとはいえ、最初の仕事である。
過保護な道元は、もちろん桜と弥生に付き添っていた。
桜ほどではないが、弥生も大分力を付け、中級くらいのあやかしならゆうに祓うことができた。
道元は満足そうな笑みを浮かべていた。
桜も妹の弥生に負けないよう、自分の出せる全ての力を持って、あやかしを退けようとした。
しかし、祓いの札に力を流し、いくら祝詞を唱えようとも、何も起こらなかった。
桜は混乱した。
(ど、どうして…?)
幾度となく唱えてきた言葉達は、桜に力を貸すことはなかった。
(何か言い間違えているの?)
聴力が失われた桜では、自分の祝詞が間違っているのかすら分からない。
集中力を欠き焦る桜の言葉は、ますます呂律が回らなくなる。
道元が何か叫んでいる言葉すら、桜の耳には届かなかった。