音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました
六章 堕ちた理由
黒稜の姿に、桜は呆然としていた。
(これは、一体どういう……)
先程まで普通の人間の姿だった黒稜が、狐のような大きな耳とふさふさの尻尾を付けている。見た目は人の姿なのだが、おおよそ人にはない獣のような部分が増えていた。
黒稜は大きくため息をついた。
『先程力を使ったからか…。…桜、少し話そう』
気を失った雪平を黒稜は式神を使って人里に返した。
式神はその名の通り、陰陽師が札に力を与え人の形にし、使役するものである。
二人の式神はふわりと浮き上がると、雪平を抱えて御影家を後にした。
血だらけの着物を脱ぎ捨て、一息着く頃には、黒稜はいつもの黒稜に戻っていた。
桜は目をこすってまじまじと黒稜を見た。
もちろん大きな狐の耳も、ふわふわの尻尾もない。見慣れた黒稜の姿だった。
「傷は、大丈夫、なのでしょうか…?」
桜が恐る恐る尋ねると、黒稜は『もう治った』と言って、着替えながら着物の袖を捲って見せた。
だらだらと血が流れていたはずの腕には、傷ひとつ見られなかった。
『桜の力のおかげだろう。ありがとう』
「私の、ですか…?」
桜の手に集まった温かな光。それが黒稜の傷を癒したというが、未だに信じられずにいた。
『桜、座ってくれ』
「はい」
桜は肩を強張らせながら、黒稜の目の前へと腰を降ろす。
黒稜は覚悟を決めたように静かに口を開いた。
『私は、あやかしなのだ』
「あや、かし……?」