音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました

 家も今よりも生き生きとしていて、活気があるような気がした。
 住んでいるのは二人だけだとは思うが、小さなあやかし達が賑やかにそこかしこを走りまわっている。

(これは夢ではなくて、もしかして過去?私は今、過去を見ているの?)

「今日はこのあと、少し街の方を見回ってくるよ」
「またあやかしが悪さをしているのですか?」
「悪さ、と言う程ではないさ。向こうも間違えて人里に降りて、困っているんだろう。少し話してみるつもりだ」
「分かりました。稜介様って、なんだがあやかしの先生みたいですね」
 ふふっと笑う桔梗に、稜介はまた照れたように頭を掻く。

「そんなんじゃないさ。ただ、あやかしと言っても、人間と同じように色んな奴がいる。話せばきっと分かってくれる」
「そうですね」
 「じゃあ行ってくるよ」と言って、稜介は街へと降りて行った。

 桜は仲睦まじい二人を微笑ましく思いながら見つめていた。

 すると辺りの明るさが変わって、夕刻を過ぎた宵闇迫る空模様へと変わった。

(夜?)

 桜が辺りを見回している間に、稜介が慌てたように駆けて来て、玄関口へと飛び込んだ。
「ただいま!桔梗!」

 桔梗は台所の火を止めて、ぱたぱたと玄関口へとやってきた。

「おかえりなさいませ、稜介様。そんなに急いで、どうされたのですか?」
 慌てて帰って来た稜介に対し、桔梗は不思議そうに首を傾げる。

「今日のあやかしは大丈夫だったのですか?お怪我をされたりは?」
「それは大丈夫だ!ちょっと人間のことを説明したら、山奥に戻って行ったよ。悪さはしてない。僕ももちろん無事だ」
「そうですか」
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