音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました

 御影の家は然程強力な陰陽師の力を持っておらず、あやかし退治、というよりはあやかしと話し、山へと帰すことを生業としていたようだった。
 広い屋敷ではあるが、使用人もおらず、ご飯も質素。
 陰陽師の家系としては、大きくないであろうことが窺えた。
 ほっと胸を撫でおろす桔梗に、稜介は早口で話を元に戻した。

「そんなことより、聴いてくれ!桔梗!」
「はいはい。そんなに慌てて、何があったのですか?」

 やや興奮気味に、稜介はこう語り始めた。

「ついに帝が、陰陽師の力を借りたいと、公にお話しされたのだ!」
「帝様が?」

 桜や黒稜の親の世代、つまり道元や稜介の世代は、陰陽師はあまり国から頼りにされておらず、国も不思議な力を使う陰陽師をなかなか信用しようとはしなかった。
 しかし、黒稜と旧知の仲である現帝が生まれてから、それは大きく変わった。
 あまり公にされてはいないが、現帝は夢見や星見の力を持っている。
 その力で数々の災害や他国の動きを当てたことから、陰陽師に対する考えを改めたのだった。
 そうして国から発せられたのが、力ある陰陽師を国お抱えの陰陽師として雇うという、陰陽師の家系にとっては生活が一変するほどの吉報であった。

「国お抱えの陰陽師となれれば、もう少し豊かな生活もできるし、きっと使用人だって雇うことができる!今はこの代々住んでいるばかでかい屋敷の管理を、桔梗一人に任せてしまっているだろう?使用人がいれば、桔梗も少しは楽になる!欲しいものだって買ってやれるぞ!」

 目をきらきらと輝かせる稜介に対して、桔梗は特段表情を変えることもなく、ただ静かに頷いた。

「そうなのですね。しかし稜介様。私は今の生活に何の不自由もありません。欲しいものなどもありません。ただ稜介様と毎日一緒に、穏やかな生活が出来ればそれで良いのです」

 桔梗の言葉に、「しかし、」と食い下がろうとする稜介。しかしそれを桔梗が遮った。
「さぁ、晩ご飯にいたしましょう。今日は煮物がとても美味しく仕上がったのです」
 桔梗の言葉に、稜介は眉を下げながらも「そいつは楽しみだ」と玄関を上がった。

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