音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました

【黒稜様は、何か存じ上げませんでしょうか?私にかけられた呪いを解く方法。呪いを打ち消すことのできる術式など、ないでしょうか?】

 もしかしたら黒稜なら何か知っているかもしれないと、桜は一縷の望みをかけて問うてみた。

 陰陽師の力が戻るかもしれない。そして、桜の聴力も。
 しかし黒稜は桜の質問に、眉根を寄せる。

「ここにある蔵書には一通り目を通したはずだが、呪いを打ち消す書物については読んだことがない」
「そう…、ですか…」
「しかし、まだ蔵の方には確認出来ていないものも多い。父の蔵書は山のようにあるからな」

 黒稜は桜の瞳を真剣に見つめた。

「絶対に呪いを解く方法を探す。俺はもう大切な者を失いたくはない…」

 黒稜の言葉にしては珍しく、桜は最後の方の言葉が読めなかった。

(なんて仰ったのかしら?失いたくない?)

 桜が黒稜の言葉を聴き返そうとしている間にも、話が先に進んでしまう。

「目下のところ、桜に掛けられた呪いの解術式を探すのが最優先だ。桜はその間、あまり屋敷から離れないようにしてくれ」
「あ…はい」
「雪平が今後何か仕掛けて来ないとも限らないからな」

 桜はそこでふと雪平の言葉を思い出す。


「貴様を地獄に送り、次はその妹、そして嫁の文江、その後が道元だ!!!」


 雪平は桜を亡き者にした後、弥生や文江、道元を襲うつもりであったらしい。
 傷を負った雪平がすぐに動くとは考えにくいが、北白河の家は無事だろうか。
 桜はそれが気掛かりだった。

【黒稜様、一度北白河の家に帰る許可をいただけませんでしょうか?】

 桜の言葉に、黒稜はぐっと眉間に皺を寄せる。
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