音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました

 一度目の時。黒稜の傷口から物凄い量の血が流れており、桜は気が動転していた。
 ただただ血が止まるよう、傷口が早く塞がるよう祈り続けた。

「何だか温かな、優しい光を、見たような、気がします…」

 桜が強く祈った時、桜の手に温かな光が集まっていき、それが黒稜の傷口を覆った。
 桜の話を聴いた黒稜は静かに頷く。

『それが祈りの巫女の力のひとつである、治癒の術ではないかと、私は思っている』
「治癒の、術…」

 陰陽師の世界に治癒の術は存在しない。使えるのは、祈りの巫女だけだ。

『加えてお前は、過去を見ている。他になにか不思議なことはないか?』

 そう問われて、桜は思い返してみる。

(不思議なこと…?)

 この前見た黒稜の両親の過去が、桜に意識できるはっきりとしたものではあるが、思い返せば、御影家に嫁いだその日から、桜は不思議な断片的な場面のような夢を視ていた気がする。

『その様子だと、他にも何か視ているようだな』
 桜の表情を見て、黒稜はそう断定した。

『このようなことは昔からあったのか?』

 桜はふるふると首を横に振る。北白河の家にいる時には一度も視たことはなかった。

(あのよく分からない夢のようなものは、祈りの巫女の力だった…?)

 それは過去に起こったことだったのか、未来で起きることなのかは、桜には分からなかった。

『そうか。何故今なのかは分からないが、力に目覚め始めたばかりなのかもしれないな』
「本当に、私が……?」
『十中八九、そうだろう』

 桜は未だに信じられずにいた。

(私が、祈りの巫女……?)
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