音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました
「あやかしの力だってそんなものじゃないんだろ?早く力を解放しろよ!」
李央の挑発に乗ることなく、黒稜は淡々と攻撃を捌いていく。
途端に李央の攻撃が止んだ。大きなため息と共に、黒稜を睨み付ける李央。
「つまんないな。全然本気にならないじゃん。どうしたら俺と本気で闘ってくれる?」
それに黒稜は答えることなく、李央を見つめ続ける。
「ああ、そうか。お前は、こうした方が本気になりやすいんだったな」
そう呟いた李央が、桜と黒稜の視界から消えた。
瞬間、桜は苦しさから思わず「うっ」と声を漏らした。
(上手く息が、吸えない……?)
桜は自分の身に何が起きたのか、一瞬理解できなかった。
すぐ傍には李央が立っていて、にっと笑っている。
気が付くと桜の首に札が巻き付いており、喉を締め付けていた。
『桜っっ!!!』
「御影 黒稜を本気にさせるには、これしか方法がないんでしょ?俺も本当はこんなことしたくないんだけどさぁ…、ごめんね、桜ちゃん」
「うぅ……っ」
申し訳なさそうに言う李央だが、桜の生死など、全く気にしていないようだった。
『貴様…』
黒稜のあやかしの力が大きくなって、狐火が彼の身体を包み込む。あやかしの力が、黒稜の感情に呼応するかのように強くなっていく。
『桜を解放しろ』
「俺に勝ったらな」
桜は薄れ行く意識の中で、必死に黒稜に手を伸ばした。
(黒稜様…だめです…!あやかしの力にのまれては……)
今のところは完璧に制御出来ていると言っていた、黒稜のあやかしの力。しかしそれが少しずつ不安定になっているのが、桜には分かった。
(このままではだめ…どうしたら…)
『黒稜を助けて』
どこかから女性のような声がしたかと思うと、キーンと高い音がして、桜は強く目を瞑った。