音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました
ゆっくりと目を開けると、そこは御影の家だった。
(え……?私、帰ってきたの…?)
辺りを見回すと、そこは桜がいつも手入れをしている、花々の咲き乱れる庭だった。
しかし、桜はすぐにその違和感に気が付く。
(桜が、咲いているわ…)
季節は冬を迎えようとしているはず。それなのに、庭にある立派な桜の木が満開に咲き誇っていた。
(私、また夢を視ているのかも…。これはきっと過去か未来の映像…)
桜はそう直感した。
桜が庭から御影の家を覗き込んでいると、玄関でぱたぱたと足音がして、その足音は勢いよく黒稜の書斎までやって来た。
「黒稜!いる!?」
スパーンと音をさせながら書斎の襖を豪快に開けた女性は、黒稜の部屋へと飛び込んだ。
「なんだ!いるじゃん!すぐ返事してよ!」
書斎にいた黒稜は、億劫がりながらも振り返った。
「何をしに来たのだ、春子」
眉間に皺を寄せながら女性を見上げる黒稜は、桜の知っている黒稜よりも幾分幼く見えた。
「何をしに来た、ってことはないでしょう?可愛い幼馴染が陰気な黒稜くんの様子を見に来てあげたっていうのに」
そう言って快活に笑った春子の顔を見て、桜は驚いた。
(私に、そっくり…?)
春子の顔は、桜に瓜二つだった。
雰囲気や性格こそまったく真逆のようだが、見た目だけで言うのなら桜と春子はそっくりだった。
(春子さん…、黒稜様の幼馴染……?)
黒稜に幼馴染がいるなんて、桜は初耳だった。
桜が嫁いできて、そのような人が尋ねてきたことは一度もなかったから。