音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました

『ありがとう、桜』
「黒稜様がご無事で、良かったです…!」

 未だに自分の力が信じられない桜だが、確かに今、自分の手から温かな光が宿りそれが二人を包み込んだ。それは確かに、二人の心身を癒したのだ。

「祈りの、巫女なのか……?」
 倒れたままの李央は、諦めたように天を仰いだ。

「そりゃ、敵うわけないわな…」
 血だらけでぼろぼろの李央に、桜は恐る恐る近寄った。

『おい、桜?』

 黒稜も心配そうにその後を付いて来る。

「出来るか、分からないのですが…」

 桜は両の掌に祈りを乗せる。

(少しでも傷がよくなりますように…)

 すると先程までとはいかないまでも、温かな光が李央を包み込み、その傷を癒した。
 李央は驚いたように目をぱちくりとさせる。

「すっご…マジで治るじゃん…」

 隣で黒稜が呆れたようにため息をついた。

『桜、力の無駄遣いは寄せ。桜の身体に何かあったらどうする』
「これくらい、大丈、夫…」

 大丈夫です、と言おうとした桜の身体が傾きそれを黒稜が支えた。

『祈りの巫女の力は、おいそれと使っていいものじゃないはずだ。自分の身体を少しは考えろ。こんな男のために使うな』

 黒稜の言葉に、李央は唇を尖らせる。

「こんな男とはなんだよ、お前が俺をボコボコにしたんだろうが」
『忘れたのか?お前が桜にしたことを。俺はお前を許していない』

 黒稜の言葉に、ぷいっとそっぽを向いた李央だが、渋々と言った様子で桜に向き直る。
「悪かったな、桜ちゃん。あと、傷治してくれてあんがと」
 桜はゆるゆると首を振る。
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