音のない世界に生きる私が、あやかしの妻になりました
「李央さん、聴きたいのです」
「何?」
「貴方は本当に、私達に復讐に来たのでしょうか?」
李央は父、雪平勝喜の復讐か?と問われ、そんなとこ、と答えた。桜と黒稜の見立てではあるが、李央が父親の復讐をしようなどと考える性格には見えなかった。
李央はへらっと笑って答える。
「別に、正直言って親父のことなんてどうでもいいんだよね。ただ親父をボコボコに出来るくらいの力を持ったお前に興味持っただけ。あれでも名のある陰陽師である親父を倒すなんて面白いじゃん。んで、桜ちゃんを攫えば、御影 黒稜をおびき寄せられると思ったんだ。まぁ、勝負は俺のぼろ負けだったけど。あやかしの力とかずるいだろ」
淡々と話す李央に、黒稜が冷たく言い放つ。
『お前の父親はあやかしの力を利用し、桜に呪いをかけた」
黒稜の言葉に、李央は目を丸くした。
「は?嘘だろ?」
愕然とする李央に、桜はゆっくりと頷いた。
桜に掛かった呪いを作ったのは先代の御影ではあるが、それを利用し、桜を亡き者としようと企んだのは、紛れもなく李央の父である雪平 勝喜だった。
「桜ちゃんの呪いが…?やばいことやってそうだとは思ってたけど、まさか親父が、そんな…」
この話は李央も知らなかったようで、先程までへらへらとしていた李央の姿は影もなかった。
「それは、悪いことしたな…」
『謝罪はいい。呪いの解術式について知っていることがあるなら吐け』
しかし李央は浅くため息をついて、眉を下げた。
「悪い、俺は何も知らない。俺が出来るのは、一時的に呪いを緩和することだけだ」
「そう、ですか…」
それだってすごいことではあるのだが、何か知っているような口ぶりであったのは、どうやら黒稜と闘うための口実だったらしい。
『無駄な時間だったようだ、帰るぞ桜』
そう黒稜が踵を返そうとすると、李央が声を掛ける。
「気を付けた方がいい!周りに祈りの巫女だなんてことが知られたら、桜ちゃんは大変なことになる!」
『それくらい分かっている』
黒稜は桜を強く抱きしめる。
もう絶対に離さないとでも言うかのように。
『俺が必ず、守ってみせるさ』