オレンジじゃない夕方






「ごめんね。もう少しプッシュがあったら真咲と組んだんだけど」



 HRの後。

 申し訳無さそうな冴に、私は手を振った。


 冴が言っているのは、国語の授業の共同発表の事だった。

 二人組で発表する課題で、冴が他の人と組んだので、私には相手が居なかった。



「一人でやるの、気楽だから良い」

「本当ごめんね。里香ちゃん、泣くからさ」




 冴が言った。




「友達だから言うけど、真咲、もうちょっと私に押して来ても良いと思うな。」

「良いよ、あんなの一人だって。」

「もう少し絡んでくれた方が嬉しいんだけど。」




 冴は呆れ顔でため息をついた。



「真咲のそういう所、尊敬する。」



 尊敬すると言われた私は発表のテーマを考え始めた。










 体操着姿の生徒達が中庭を横切る。

 お昼休み。


 教室で、私は本を読んでいた。


 少女が魔法で世界を救う話。色んな魔法が出てきて、色彩にあふれている。少女はには大切なものがあり、故郷の友達がそれだ。友達の中には恋人と言っていい人も居て、少女は彼らのために、全力を尽くすのだ。



「……そいう訳なので、ミラは魔法を使うのをやめました。」



 真後ろから本の内容を読み上げる声がして、私はとても驚いた。


 振り向くと、椅子のすぐ後ろに敬が居た。

 いつもの顔で、ふーん、と本を見ている。



「びっくりした」

「原さんそういうのが好きなの?」


 見ないでよ、とは、言わなかった。



「小説好きだね」


 敬が言った。



「いつ見ても本読んでる。余程好きなんだね。」

「うん、まあ」

「僕は小説はあんまり。想像の世界って楽しい?。見えないものイメージしてるんだ。」



 敬が言った。



「原さんの想像の世界面白そう。」



 敬は向こうに行かなかった。


 代わりに私の席の後ろに、立ったまま居た。



 間が持たなくなった私は、つい言ってしまった。




「敬にも、本、貸してあげようか。」

「本当?」




 黒い瞳がきらりと輝いた。



「是非」





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