オレンジじゃない夕方

07






 調理実習は家庭科室でカレーを作る実習で、教室には早くもいい匂いが漂っていた。

 私の前の席には敬が立っていて、ベージュ色のエプロンを付けているところだった。

 下を向いて、背中で紐を結びながら、喋らない。



「カレーって簡単って言うけど、作った事ない」



 テーブルの上の材料を眺めながら私が言った。


 クラスメート達はカレーの材料を出して調理を始めている。



「簡単だよ。」



 敬が言った。



 見ていると敬は料理も上手だった。
 
 じゃがいもの皮きれいに剝いて、まな板に並べている。


 私も皮むきの担当だった。

 私は人参と真剣に格闘していた。



「原さん、ぶきっちょ」



 敬が笑った。



「だって」



 私の人参は、下手な剥き方で大きさが小さくなっていた。



「貸して」



 敬は剥きかけの人参を取ると、きれいに剥き始めた。



「原さんって料理下手なんだね」



 鍋で肉を炒めながら、敬が言った。

 私は敬のエプロンの似合う姿を見ながら、苦笑いした。


「だって、したことないんだもん」

「意外。からかうね」

「普段料理するの?」

「うん。よく作ってる。なんでも作れるよ。」



 敬が言った。



「原さん、何か作ってあげようか」



 言葉の真意が読み取れない私は、リアクションを取らなかった。



 カレーはどうにか鍋にそれらしく出来上がった。

 喋っているクラスメート2人が同じテーブルに居たが、私は敬と食べながら話していた。



 大きなスプーンでカレーをパクリ、と食べて、敬が言った。


「そういえば、昨日はコーヒーゼリーを作った。原さん、帰り食べに来なよ。」











 この頃は夕方が青い。

 
 オレンジ色に染まるはずの空が、柔らかい青い色をしている。


 それが不思議な現象なのか、普通なのか、私が敬と居る時にそれに気づくのか分からなかった。



 学校の事。
 授業の事。
 最近読んだ本の事。



 敬が言った。




「原さん、国語の発表一人でしたでしょう。」

「うん」




 敬が聞いた。



「友達居るのに、何で一人でするの。」

「別に、気にならないから。」

「変なひと。」



 敬が言った。



「そういうの気になる。もっと知りたいって思う。原さんって一体どんな人なの?。」



 私は鞄を持ち替えて、歩き続けるつま先だけ見ていた。

 視界の隅で、敬がどんな顔をしているのか見えなかった。






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