オレンジじゃない夕方
学校へ行くと敬がもう隣の席に着いていた。
敬は机で教科書をパラパラ捲っている所だった。
引き出しに荷物を仕舞っていると、さらさらの黒い髪の下の黒い目が、ちら、と動いてこっちを見た。
ロッカーに鞄を置いてから、私は筆箱を出した。
黒板には白い字で、日直の名前が端っこに書かれている。
出し抜けに敬が聞いた。
「原さん、空見上げたりする?」
「……何で?」
敬はいつもの爽やかな顔で答えた。
「別に。」
ちょっと困った顔をしていたと思われる私は、考えてから答えた。
「見るよ。」
「そう。」
敬は頷いた。
それから言った。
「昨日の夜は月が綺麗に見えたよ。満月だったんだ。原さんて、なんか、明るい月のイメージ。」
目をパチクリした私を無視して、敬は教科書をまた捲り始めた。
本が大好きで読むのは小学生の頃からだった。
お小遣いを全部小説に費やし、図書室を覚えてからは毎日のように図書室に通った。
精神統一。心の安定。ルーティンワーク云々。
二十分休みに一人で図書室に入ると、大きな窓が開けっぱなしになって、陽光が部屋の中になだれ込むように入っていた。
小説を選びながら、私はちょっとだけ隣の席の人を思い出した。