オレンジじゃない夕方

03

 
 




 学校へ行くと敬がもう隣の席に着いていた。

 敬は机で教科書をパラパラ捲っている所だった。

 引き出しに荷物を仕舞っていると、さらさらの黒い髪の下の黒い目が、ちら、と動いてこっちを見た。


 ロッカーに鞄を置いてから、私は筆箱を出した。


 黒板には白い字で、日直の名前が端っこに書かれている。


 出し抜けに敬が聞いた。


「原さん、空見上げたりする?」

「……何で?」


 敬はいつもの爽やかな顔で答えた。


「別に。」


 ちょっと困った顔をしていたと思われる私は、考えてから答えた。


「見るよ。」

「そう。」


 敬は頷いた。

 それから言った。


「昨日の夜は月が綺麗に見えたよ。満月だったんだ。原さんて、なんか、明るい月のイメージ。」


 目をパチクリした私を無視して、敬は教科書をまた捲り始めた。





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