オレンジじゃない夕方
学校生活は億劫だが何事もなく過ぎていく。
自分を中学生の割に冷めている方だと思っている私は、冷静さと訓練したクールさとで、学校生活をどうにか回している。
本当は図書委員になりたかったのだが、じゃんけんで負けて私は教科係をしていた。
他の教科係達はみんな仕事を忘れて怠けているので、いつも私は一人で仕事をしていた。
チャイムが鳴って、理科の授業が終わってすぐ、私は教材室に、図鑑を置いてくるように言われた。
図鑑は分厚く、3冊持つと結構重かった。
グループごとに見る図鑑で、全部で5冊あった。
教卓から、私が図鑑を運ぼうとしていると、後ろから敬が声をかけてきた。
「原さん」
「はい」
思わずそう返事をしてしまった。
「それ、持ってくの?」
敬が図鑑を指さした。
「うん」
持っている一番上の図鑑の表紙には、植物の写真がアップで映されていた。
一緒に蝶の写真も。
天体の写真も。
「大変でしょ?持ってってあげるよ」
敬が言った。
「え、いいよ」
「いいよ、遠慮しなくて。」
「いい」
「いいって。もしかして、持てないと思ってるの?」
敬が聞いた。続けた。
「僕は思ってるかも、原さんに。もしかしたら持てなかったらいいなと思ってるかな」
敬は私を無視して、私の腕から図鑑を取り上げると、5冊とも自分で持ち直した。
「行こう」
私は固辞できなかった。