オレンジじゃない夕方
05
教科準備室には誰もいなかった。
古くなった緑色の壁にグループ用の大きなテーブルが一つと、椅子と、片脇に数冊本が立てかけてあるだけの木の棚があった。
「はい」
敬が言って、ドサリと図鑑をテーブルに置いた。
敬が教室から出ようとしないので、私は立ったまま手持ち無沙汰に居た。
閉まっている窓越しに光が差し込んでくる。
敬は椅子を引いて座ると、テーブルの上でで腕を組んだ。
「この部屋は埃っぽいな。作りが荒くて、雰囲気が学校って感じ」
「そう?」
「うん。そうじゃない?。日差しが当たると、ノスタルジック」
敬が聞いた。
「原さん、面白い事があった時、どうやって言う?」
「面白い事って?」
敬が言った。
「僕はこう言う。」
表情を変えないまま敬が言った。
「こういう部屋に、原さんと居るのが、僕には特別だな」
教科準備室は静かだった。
敬の言うように、窓から入り込む陽光が教材やロール紙に柔らかく当たって、写真に残したらきれいだろうと思えた。
前にも言った事を、敬はまた言った。
「原さんが、クラス委員の書記やれば良かったのに」
「何で?」
前に言ったそのままを聞いた。
「別に」
敬が言った。
テーブルを見て、すまし顔をしている。