オレンジじゃない夕方

05







 体操着姿の生徒達が中庭を横切る。

 お昼休み。


 教室で、私は本を読んでいた。


 少女が魔法で世界を救う話。色んな魔法が出てきて、色彩にあふれている。少女はには大切なものがあり、故郷の友達がそれだ。友達の中には恋人と言っていい人も居て、少女は彼らのために、全力を尽くすのだ。



「……そいう訳なので、ミラは魔法を使うのをやめました。」



 真後ろから本の内容を読み上げる声がして、私はとても驚いた。


 振り向くと、椅子のすぐ後ろに敬が居た。

 いつもの顔で、ふーん、と本を見ている。



「びっくりした」

「原さんそういうのが好きなの?」


 見ないでよ、とは、言わなかった。



「小説好きだね」


 敬が言った。



「いつ見ても本読んでる。余程好きなんだね。」

「うん、まあ」

「僕は小説はあんまり。想像の世界って楽しい?。見えないものイメージしてるんだ。」



 敬が言った。



「原さんの想像の世界面白そう。」



 敬は向こうに行かなかった。


 代わりに私の席の後ろに、立ったまま居た。



 間が持たなくなった私は、つい言ってしまった。




「敬にも、本、貸してあげようか。」

「本当?」




 黒い瞳がきらりと輝いた。



「是非」





< 9 / 19 >

この作品をシェア

pagetop