長尾さん、見えてますよ






―よし言った。










万事解決とばかりに心の中でガッツポーズをとる。










当然この間俺の表情筋は微動だにしていないので、傍目からはまあ死んだ目をして突っ立ってるように見えているのだろう。







「…あの」






「あ、すみません、なんですか?」


 




長尾さんの声で現実に引き戻されると、複雑な表情を浮かべていた。



 


「…すみません、ご迷惑おかけしました」







「あ、いや…いいえ」







なんせ抑揚のない話し方だから、長尾さんの感情こそ読み取れないものの、申し訳ない気持ちはどことなく伝わってきた。







「…えっと、佐渡くんでしたっけ」







「あ、はい。佐渡秋(さわたりあき)です」






「そうですか…。佐渡くん、差し支えなければこのまま備品の説明してもいいですか。今日は私服の着替えを持ってこなかったので…」








仕切り直すように髪を耳にかけ、目を伏せたままそう言われる。







「まあ…それは別にいいですけど…」







思いきって言ったことでそれまでのモヤモヤはスッキリしたし、ブラが見えてるからといって別に興奮はしない。他人だし。








…いや、男捨ててないけど。






ともかく、本人がそれでいいならもう気にならないし何とも思いはしないのだが。








「あの。俺のシャツ、持ってきますんで着てください」

    






気を使ったわけではない。






強いて言えば髪をかけたことであらわになった長尾さんの耳が、ほのかに赤くなっていたことに気づいてしまったから。







一方長尾さんはというと、少し黙りこんだあと、俯いていた顔を上げてようやく目を合わせた。








「…すみません。ありがとうございます」







こうして俺と、それから一応、長尾さんの平穏が取り戻されたことで落着し、その後の勤務はつつがなく終えることができた。






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