最期の言霊


ゴールデンウィーク明けの5月の始め頃。
中途採用で新入社員がきた。

「笹森楓です。宜しくお願いします。」

彼女の第一印象は、清楚で大人しそうだが、どこかミステリアスで不思議な雰囲気を持つ女性だった。

「笹森くんは、総務の方をお願いするよ。」
無い髪の毛を必死に取り繕ったハゲ課長、じゃなくて羽田課長はそう言った。

笹森さんは総務部かぁ。

そんなことを思っていると、社内で一番仲の良い、同じ年の片岡伸也が俺の脇腹を小突いてきた。

「笹森さん、タイプなのか?清楚で美人だもんなぁ〜。」
「な、何だよ。」
「今、ずっと見てただろ?デートに誘っちゃえよ。」
「もう、うるせーなぁ。」

伸也と小声でそんな会話をしていると、「なーに、コソコソしてんのぉ?!」と不機嫌そうな顔をした君島ヒカリがやって来た。

ヒカリは1つ年下の、伸也の彼女で社内恋愛中だ。

「隼人、笹森さんのことタイプなんだってよ。」
「そんなこと一言も言ってねーだろ!」

そうこう話をしていると朝礼が終わり、各自の仕事に就いた。

さっきは伸也に茶化され苛ついたものの、仕事中に何度か笹森さんが気になり、目を盗んでは笹森さんを目で追っている自分がいた。

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