最期の言霊
梅雨の時期に入り、ほとんどの日が雨だ。
雨の日は気持ちまで憂鬱になってくるから、俺は雨が嫌い。
でも、そういえば、笹森さんは雨が好きだって言ってたなぁ。
ある日の仕事帰り。
今日も朝からずっと雨が降っていた。
定時より30分残業をし仕事を終えた俺は、帰宅しようとエレベーターに乗り、1階まで降りた。
すると、会社の入口付近に誰かの後ろ姿が見えた。
その後ろですぐに分かったが、笹森さんだった。
傘がなくて雨宿りしてるのかな?
俺はそう思いながら、笹森さんに近付いた。
「お疲れ。」
俺はそう言い、笹森さんの手元を見た。
すると、傘を持っていた。
雨宿りしていたわけではなさそうだ。
「お疲れ様。」
「何してるの?帰らないの?」
俺がそう訊くと、笹森さんは「歩いて帰りたいから、雨が止むのを待ってるの。」と答えた。
雨はかなりのザーザー降りだ。
これが止むとは思えない。
「この雨じゃ無理だと思うよ?」
「大丈夫。そろそろ雨が上がるはずだから。それに雨が降るのを見てるのも悪くないよ?」
笹森さんは笑顔でそう言った。
俺は、「そんな馬鹿な」と思ったが、その10分もしない内に、本当に嘘のように雨があがり、雲間から光が差し込み始めたのだ。
そんな空を見て驚く俺に、笹森さんは「ねっ?」と言いながら微笑んで見せた。