最期の言霊

俺はその日、頭の中が「精密検査」への不安でいっぱいだった。

俺、病気なの?
精密検査しなきゃいけない程、酷いのか?

そんなことを考えながら、普通に居たつもりだったが、笹森さんにはお見通しだった。

「隼人くん。」

仕事の帰り、バス停までの道のりを歩いていると、後ろから俺を呼ぶ声がした。
俺は声の主が笹森さんだと分かって、振り返った。

笹森さんは切なそうに微笑むと、何かを察しているかのように「一緒に帰ろう?」と言ってくれた。

「うん。」
俺が返事をすると、笹森さんは駆け寄って来て、「今日はわたしが送るね?」と微笑んだ。

笹森さんの顔を見て、泣きそうになっている自分がいた。
何でだろう。
何で俺は、笹森さんを見て泣きそうになってるんだ?

そんなことを思いながら、「じゃあ、今日は宜しくお願いします。」と泣くのを我慢しながら、ふざけたように言って見せた。

今日は特に会話もなく、二人並んでバス停まで歩き、バスに乗っても黙ったままだった。

しかし、何も話さなくても居心地が悪いわけではなく、むしろ笹森さんが居てくれている安心感に救われている自分がいた。

俺たちは、俺の自宅付近のバス停で降りると、俺はすぐそこに見えるマンションを指差し「あれの7階が俺んち。」と言った。

「わぁ、立派なとこ住んでるんだね!」
「そんなに立派でもないよ。」

俺はそう言ったあとで「今度うち来る?」と冗談で言った。

すると、笹森さんは「行こうかなぁ〜。」と言って笑った。
予想外の返答に恥ずかしくなる俺。

そのあと、俺と笹森さんは「おやすみ!」と行って別れた。

その日の夜、俺は一睡もすることが出来なかった。

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