最期の言霊

そのあとのことは、全て笹森さんがやってくれた。
入院の手続きや、会社へ診断書と休職届の提出。
会社側には、そんなに大きな病気とは伝えず、本当の病名を知っているのは、ハゲ課長だけにしてもらった。

伸也とヒカリからは「大丈夫なのか?!」とLINEがきたが、俺は心配をかけたくなくて「そんな大きな病気じゃないから、大丈夫だよ!」と伝えた。

それから、俺は笹森さんに自宅の鍵を渡し、必要なものを取りに行ってもらった。
初めて自宅へ招くのが、こんな形になるなんて、、、

俺の中には、もう絶望しかなかった。
俺に未来などない。

そして、抗がん剤は受けないことにした。

鎌田先生に「使ってみたとしても、あまり効果は期待出来ない。」と言われたからだ。

抗がん剤と聞けば、酷い吐き気や脱毛が思い浮かぶ。
効果が期待出来ないなら、そんな苦しみたくない。

俺はもう、生きることに前向きになれないでいた。

食欲もなく、みるみる内に痩せて顔色も悪くなってゆく自分の姿に、病気であることを実感せざるを得なかった。

そんな俺に笹森さんは、毎週土日、必ず面会に来てくれた。
30分という短い面会時間だったが、笹森さんに会えるのだけが、俺の入院生活での唯一の楽しみになっていたのだ。

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