最期の言霊

そんなある日の土曜日。

お昼頃に病室のドアをノックする音が聞こえた。
開いたドアから顔を出したのは、笹森さんだった。

そして、病室に入って来ると、テーブルの上に置かれた手が付けられていない病院食を見て、「また食べてないの?」と言ったのだ。

「うん、、、食べる気になれなくて。病院食っておいしくないしね。」

俺がそう言うと、笹森さんは俺のベッドの側にある椅子に座り、持ってきた袋からリンゴを取り出して見せた。

「リンゴなら食べれない?」

あまり食欲はなかったが、俺は作り笑顔を浮かべ「食べる。」と言った。

すると、笹森さんは病院に置いてある包丁でスルスルとリンゴの皮を剥き始めた。

「上手だね。」
俺がそう言うと、笹森さんは「お祖母ちゃんから剥き方教えてもらったんだぁ。」と言い、微笑んだ。

笹森さんは、本当にお祖母ちゃんが大好きだったんだなぁ。
それと共にお祖母ちゃんに対して何か後悔し、切なそうな表情を浮かべたときのことを思い出した。

「はい、どうぞ。ふじリンゴ、美味しいよ?」

笹森さんはそう言って、テーブルに置いてあった病院食を片付け、白い皿に乗せたリンゴをテーブルに置いた。

俺は、皿から一つリンゴを手に取ると「いただきます。」と言い、一口かじってみた。
すると、口の中にリンゴの甘さと、そして笹森さんの優しさが広がっていくのを感じた。

「美味しい、、、」

リンゴってこんなに美味しかったっけ?

久しぶりに口にする食べ物、リンゴは今まで食べてきたリンゴの中で一番美味しく感じられた。
そしてなぜか、涙が溢れてきたのだった。

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