最期の言霊
俺は、さっきのことを思い出した。
笹森さんは、岩井さんに何かの書類を確認してたよなぁ。
そしたら岩井さんが面倒くさそうに、パッとしか確認しないで「さっさと打ち込んで。」と笹森さんに指示を出していた。
笹森さんのミスなのか?
気付けば、俺は総務部の方へ向かって歩き出していた。
「笹森さん、ちゃんと岩井さんに確認取ってましたよ。」
俺の言葉に岩井さん、ハゲ課長、笹森さんの視線が俺に集まり、事務所内が静まり返った。
「岩井さんがパッとしか確認しないで、笹森さんに指示を出してるの、俺見ましたけど。岩井さんにも責任あるんじゃないですか?」
俺がそう言うと、図星を突かれたというような表情で岩井さんは顔を真っ赤にしていた。
「まぁまぁ。」と何とかその場を落ち着かせようとするハゲ課長。
岩井さんは「今度からは気をつけなさいよ!」と言い残すと、悔しそうに自分のデスクに戻って言った。
すると、ハゲ課長が俺に「岩井さんを怒らせるなよ。あとが怖いんだから。」と小声で言ってきた。
「俺は、見たそのままを言っただけですけど。」
「お前は総務部じゃないんだから、口を出すな。分かったな!」
ハゲ課長はそう言うと、仕事もせずに喫煙室に向かって行った。
何だよ、入社してきたばかりの笹森さんを守ってやらないで、岩井さんに気使えってことか?
これだから、総務部は人員入れ替わりが激しいんだよ。
俺がそう思い、イライラしながらデスクに戻ろうとすると、後ろから「あのぉ、」とか細い声が聞こえてきた。
振り向くと、そこには笹森さんが申し訳なさそうな表情で立っていた。