最期の言霊
それから俺たち4人は、週に一度はいつもの焼鳥屋「縁結び」に行くようになった。
いつも伸也とヒカリのカップルが喋ってばかりで、仕事の愚痴を言ったり、時には夫婦漫才のような会話になったりで、俺と笹森さんは笑いながらそれを聞いていた。
今までは俺一人が聞き役を担っていたが、聞き役がもう一人増えて、二人も嬉しそうだ。
それをきっかけに自然と俺たちは仲良くなっていったのだった。
「じゃあ、今日もお疲れ!隼人ぉ、楓ちゃんのこと送ってやれよ〜!」
そう言いながら、伸也はヒカリと共にヒラヒラと手を振りながら、俺たちとは反対方向へ行き、タクシー乗り場に向かう二人。
ヒカリは伸也と腕を組みながら、「お疲れー!」と大きく手を振っていた。
「お疲れぇ!」
「お疲れ様ぁ!」
俺と笹森さんもそう言うと、二人に向かって手を振る。
そして、すぐ駅前のタクシー乗り場からタクシーに乗り、帰って行く二人を見送った。
「伸也さんとヒカリちゃん、仲良いよね。」
二人が乗るタクシーの後ろ姿を見つめながら、ほっこりした様子で笹森さんが言い、俺も同じく二人が乗るタクシーの後ろ姿を見つめながら、「まぁね、あの二人もう5年も付き合ってるから。」と言った。
俺たちは仲良くなってはきたものの、俺だけが彼女のことを"楓ちゃん"と呼べず、"笹森さん"と呼び続けていた。
「さて、俺らも帰りますか。」
「うん、そうだね。」
俺たちは、いつも"縁結び"からの帰り道を歩いて帰っていた。
理由は、笹森さんが歩いて帰りたいと言ったからだ。
夜空を見上げながら、歩いて帰るのが好きらしい。
俺はそんな笹森さんをそこそこの時間を歩いて家まで送るのだが、この時間が俺も好きになっていた。