👧 ドリームドッグ 🐶  ~フランソワの大冒険~
 その日のうちにフランソワは機中の犬となり、日本に向かった。
 密約を交わして一緒に乗り込んだ男が世界一カッコいいロックスターの露見呂嗚流だと知って一瞬驚いたが、それで怯んだりはしなかった。
 こちらには世界一の美女〈美椙子〉という切り札があるからだ。
 彼女に会せるまではこちらが主導権を握れるし、贅沢なもてなしが期待できるだろう。
 ほくそ笑みながら豪華なソファに体を沈めたフランソワは、ニンマリを止めることができなかった。
 
 飛行機はカナリア諸島からヨーロッパ、中東、インドを経て、ビジネスジェット機専用ゲートがある羽田空港へ向かっていた。
 乗客は呂嗚流とフランソワと秘書と料理人だけだった。
 そう、この飛行機は呂嗚流が移動するためだけの専用機なのだ。
 その名は『HONDAジェット・エリート』
 世界で最も美しいビジネスジェット機。
 エンジンが翼の上に設置された優雅なフォルム。
 白とアイスブルーの鮮やかなツートンカラー。
 そして、優れた静粛性(せいしゅくせい)と広い室内。
 更に、優れた燃費性能による長い航続距離が魅力だった。
 1回の給油で2,600㎞以上飛べるのだ。
 勿論、一気に羽田へは行けない。
 カナリア空港と羽田空港の距離は13,000キロ弱なので、最低5回は給油しなければならない。
 しかし、それはそれで、決して悪いことではないと呂嗚流は笑った。
 その土地その土地で楽しいことがあるからだという。
 
 しかし、そんなことに興味のないフランソワは、世界一のロックスターになった秘訣を探り出そうとチャンスを狙っていた。
 シャンパンを飲みながら考え続けた。
 すると、子分になるのが近道だと閃いた。
 それはとても良いアイディアだと確信したが、そう簡単でもないことに気がついた。
 彼は世界一のロックスターなのだ。
 おべんちゃら(・・・・・・)を言って近づいてくる輩はわんさかいるし、なんとか取り入ろうとする下心を持つ者は掃いて捨てるほどいるはずだ。
 だから、そいつらと同じレベルと思われたらオシマイになる。
 では、どうする? 
 必死に考えると、母犬の顔が浮かんできた。
 そして、乳飲み犬だったフランソワの顔を舐めながら、優しく諭すように語った言葉を思い出した。
 
 
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