『世界一の物語』 ~夢犬・フランソワの大冒険~
 ウオ~! 
 つんざくような歓声が会場にこだました。
 その声に呼ばれるように空中から二人が舞い降りてきた。
 呂嗚流と椙子だった。
 世界一カッコいいロックスターと世界一の美女が目の前に現れたのだ。
 キャー! 
 歓声と嬌声(きょうせい)が大爆発し、誰もが髪を振り乱した。

 スタンドマイクを気障に持った呂嗚流と、ハンドマイクを両手に持った椙子のデュエットが始まった。
『愛・平和・未来』だ。

 愛が平和を創り、平和が未来を創る♪

 魂のメッセージが観客の心に沁みた。
 それだけではなかった。
 全世界に向けた放送を通じて、世界中の視聴者の心に染み渡っていった。

 愛が平和を創り、平和が未来を創る♪
 愛が平和を創り、平和が未来を創る♪

 間奏が始まり、ツイン・リードギターが炸裂した。
 そして、三度や五度の和音による流れるような華麗なギター・ハーモニーが始まった。
 
 その素晴らしさに観客が酔いしれていると、再び歌が始まった。
 そして、エンディングに雪崩れ込んだ。

 ラヴ、ピース、フューチャー♪
 ラヴ、ピース、フューチャー♪

 ステージ全員の合唱が始まった。
 合わせるように観客全員が歌い出した。

 ラヴ、ピース、フューチャー♪
 ラヴ、ピース、フューチャー♪

 大合唱になった。
 観客全員が肩を組んで歌っていた。
 それをテレビで見ていた視聴者たちも歌い始めた。
 そして、肩を組んだ。
 夫と妻、親と子供、恋人同士、友達同士、知らない者同士、世界中の人々の心が一つになった映像が、ステージに設置された大型ディスプレーに映し出された。
 
 興奮のるつぼの中、曲が終わった。
 すると、会場の灯りが消えて女性の姿が浮かび上がった。
 玉留だった。
 えっ? 
 さっきまで僕の隣にいたのに……、
 フランソワは目を疑いながらも、ステージ上の彼女を見つめた。
 
 
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