『世界一の物語』 ~夢犬・フランソワの大冒険~
 歌い終わったジョンが「想像してごらん」と語りかけた。
「この世に国ってあるのかな? 国という概念に縛られる必要はあるのかな?」
 そこで口をつぐんだ。
 すべての人に考えてもらおうとするかのように。
 しかし、沈黙が長く続くことはなかった。
「もうわかったよね。そんなものはこの世にないってことが。だから国のために殺し合う必要はないんだ。違う国を敵だと思う必要はないんだ。みんな同じ地球人なんだから」
 そして、それは宗教も同じだと説いた。
 宗教の違いで憎み合ったり殺し合ったりするのは間違っていると、静かな声で諭した。
「想像してごらん。争いの中で生きるのと平和な中で生きるのとどっちが幸せか」
 すると、ポールが歌い出した。
 ♪ imagine all the people sharing all the world ♪
 それは、この地球が誰のものでもないことを表していた。
 みんなのものなのだ。
 みんなが分かち合うものなのだ。
 
「想像してごらん。そして心の声を聞いてごらん。そうすれば、何が正しいか、何が間違っているか、わかるから。いいね、想像してごらん。心の声を聞いてごらん」
 そこで声が消えると、スクリーンから姿も消えた。
 しかし、会場にいるすべての人の心の中にジョンは残り続け、その言葉はとどまり続けた。
 それだけでなく、彼が望む平和な世界を実現させなければならないと、強く自らに言い聞かせた。
 彼がみんなの心を一つにした。

「ありがとう、ジョン」
 残像に向けてポールが手を振った。
 しかし、いつまでも名残(なごり)を惜しんではいなかった。
「もう一つ特別なプレゼントがあります」と言ったのだ。
 その瞬間、会場がざわついた。
 マイルス・デイヴィスやジョン・レノンと肩を並べるミュージシャンなどいるのだろうか、という懐疑的なざわつきだった。
 それでもポールは動じなかった。
 自信満々の様子で「もう一人の特別ゲストは、」と言って、指を鳴らした。
 その瞬間、スクリーンにスポットライトが当たり、シルエットが浮かび上がった。


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引用:
『imagine』(ジョン・レノン作詞作曲)の一部歌詞。
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