『世界一の物語』 ~夢犬・フランソワの大冒険~
 えっ?
 もしかして……、
 まさか?
 ウソッ!
 誰もが驚く中、イントロが流れて二人が歌い始めた。
『ガール・イズ・マイン』
 スクリーンが上がると、そこにはマイケル・ジャクソンがいた。
 会場が絶叫で埋め尽くされた。
 それは歌が聞こえないほどの大音量だった。
 それでも、ポールの横に移動したマイケルがウインクをすると一気に静かになり、二人の歌声が会場を支配した。
 
 誰もが二人のデュエットに酔いしれた。
 しかし、それは序章でしかなかった。
 あの大ヒット曲がメドレーで歌われたのだ。
『ビリー・ジーン』と『今夜はビート・イット』
 でも、それだけでは終わらなかった。
 あのナレーションが流れてきたのだ。
 不気味な笑い声が響く中、あのイントロが始まった。
 すると、観客を背にしていたマイケルが振り向いた。
 狼男になっていた。
 ステージに並ぶミュージシャンの顔はゾンビだった。
 そして、全員によるゾンビダンスが始まった。
 マイケルが会場を指差した。
 その途端、観客全員がゾンビになった。
 更に、テレビカメラに向かって牙をむくと、視聴者も全員ゾンビになった。
 全世界でゾンビダンスが始まった。
 世界中のゾンビが『スリラー』を合唱した。
 
 歌が終わると、マイケルがマイクを握って叫んだ。
「愛なき世界、平和なき世界、未来なき世界、それはゾンビの世界だ。みんなはゾンビになりたいのか!」
 その瞬間、世界中の人がハッとした。
 自分達がゾンビへの道を歩んでいることに気づいたのだ。
 全員が強く頭を振った。
「本当だな。もしウソだったら」
 マイケルが牙をむくと、会場は静まり返った。
 息が詰まるような静まり方だった。

 それが永遠に続くかと思われた時、ポールがマイケルの肩に手を置いて微笑みかけた。
「俺たちはそんなに馬鹿じゃない。大丈夫だ」
 その途端、マイケルが人間の顔に戻った。
 同時に観客も視聴者も人間に戻った。
 それを見たポールがマイケルに微笑みかけた。
「一緒に歌ってくれるかな?」
 マイケルは返事の代わりにムーンウォークを始めた。
 それを合図に『愛・平和・未来』の演奏が始まり、マイケルが歌い始めた。

 ラヴ、ピース、フューチャー♪
 ラヴ、ピース、フューチャー♪

 会場が、全世界が、再度大合唱に包まれた。

 ラヴ、ピース、フューチャー♪
 ラヴ、ピース、フューチャー♪

 それを聞き届けたマイケルの体が宙に浮き始め、どんどん高くなっていった。
 そして、天井に吸い込まれるように消えていった、手を振りながら。
 
 見送っていたポールが、「ありがとう。安らかに眠ってくれ」と残像に声をかけた。
 そして、ジャンプし、着地して、ジャン♪ と決めた。
 その瞬間、ステージ上からすべてのミュージシャンが消えた。
 
 
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