『世界一の物語』 ～夢犬・フランソワの大冒険～

　すべての演奏を見終わったフランソワの目から涙が零れ落ちた。
　震えるような感動が全身を包んでいた。
「音楽って素晴らしい……」
　全世界の人々の心を一つにした偉大な力を目の当たりにして、音楽が持つ無限の可能性に気づかされたのだ。
「素晴らしいメッセージがメロディーになり、心を打ち震えさせるリズムになる。そして、共感の輪が広がりハーモニーが生まれる。あ～、なんて……」
　隣で頭を撫でてくれている玉留を見つめた。
「メロディー、リズム、ハーモニー、この三要素が一体となった時、計り知れないパワーが生まれることを実感しました。音楽だけでなく、人生のあらゆる場面で力を発揮することを」
　言い終わった瞬間、ハッと気づいた。
　そうか、株式投資も一緒だ。
　すると、玉留の言葉が蘇ってきた。
「メロディー、リズム、ハーモニーって、ジャズに限らず音楽の重要な三要素よね。株式投資も同じなの。よく考えてみて」
　そうか、やっとわかったぞ。
「メッセージと感動と共感が大事だということがよくわかりました。つまり、社長が発するメッセージに感動できるかどうか、それが投資判断の基準なのですね。そして、そのメッセージと行動に多くの人が共感すれば株価は上がっていくものなのですね」
　玉留の言っていたことが理解できたフランソワは、思わずチンチンをして彼女にすり寄った。
「あなたって最高！」
　玉留はフランソワをひしと抱きしめた。
　そして、じっと顔を見つめて驚きの言葉を発した。
「フランソワ、あたしあなたと結婚する。そして、あなたの子供を産む」
　えっ？　
　結婚？　
　子供？
　えっ？　
　えっ？？　
　えっ？？？　
「あなたはあたしの言うことをすべて理解してくれた。それだけではなく、勇敢にも単身乗り込んで富裸豚覇王を救った。更に、誰も助けることができなかった呂嗚流様を復活させた。こんな男性はどこにもいない。あたしが出会った最高の男性よ」
　僕が最高の男性……、
　フランソワは嬉しくて涙が出そうになった。
　彼女と結婚したかった。
　子供がいる家庭を築きたいと心底思った。
　しかし、結婚はできない。
　子供も作れない。
「異種間の交配は禁じられております。僕とあなたで子供を作ることはできません。だから……」
　身を引こうと玉留の手を振り解いたが、すぐにまた抱きしめられた。
「いいの。セックスなんてしなくっていい。子供がいなくってもいい。あなたと寄り添いたいの。あなたと一生を過ごしたいの」
　そんなにまで僕のことを……、
　玉留の愛に溺れそうになったが、現実を直視しないわけにはいかなかった。
「籍に入れることもできませんが、それでもよろしいのですか？」
　彼女は大きく頷いた。
「電柱にオシッコしますが、それでもよろしいのですか？」
　再び大きく頷いた。
「あと10年位しか生きられませんが、それでもよろしいのですか？」
　一瞬悲しそうな表情を見せたが、小さく頷いた。
「あと……」
　諦めさせようと次の言葉を探したフランソワの口を玉留の唇が塞いだ。
「もう何も言わないで！」
　すると、そこで場面が変わった。
　広大な敷地の中の美しい庭で華やかな衣装を着た多くの男女が集まって談笑していた。
　その輪の中心に一匹の犬と美しい女がいた。