『世界一の物語』 ~夢犬・フランソワの大冒険~
未知の世界へ
~ 第八幕:未知の世界へ ~
「コングラチュレーション!」
笑みを満面に浮かべた呂嗚流がグラスを上げた。
「コングラチュレーション!」
皆もグラスを上げた。
美家の広大な庭園で催された披露宴は喜びに包まれていた。
「綺麗ね~」
純白のウエディングドレス姿に溜息が集まった。
「馬子にも衣裳ね」
羽織袴姿の新郎に忍び笑いが集まった。
「フランソワ、いい加減食べるのを止めてみんなと飲もうぜ」
呂嗚流が手を振った。
その時フランソワは結婚祝いとして送られてきた〈月の餅〉を食べるのに夢中だった。
それは富裸豚からの贈り物で、月に移送した自己中駄王と側近につかせた特別な餅だった。
しかし、食べ続けることは許されなかった。
「新郎が飲まないと盛り上がらないだろう」と、なみなみと注がれたビールグラスを強制的に渡されたのだ。
「一気にいこうぜ」
呂嗚流がグラスをカチンと合わせると、フランソワは一気に飲み干した。
うまい! この喉越しが、このキレが、
プハ~、たまらんぜ。
喉を鳴らすと、眩しすぎるほどの美しい笑みを湛えた椙子様が泡が盛り上がったジョッキを持ってきてくれた。
それを一気に飲み干すと、「その飲みっぷりが好きよ」と華やかなピンクのドレスに着替えた玉留がウインクと共に新しいジョッキを手渡してくれた。
「ワン♪」
絶好調になってまた飲み干すと、いきなり見知らぬ男がやってきて名刺を差し出した。
『偉犬伝出版社』と書かれてあった。
「世界一のお犬様になられたフランソワ様の伝記を出版させて頂きたいのです」
世界一の美女の愛犬から世界一の大富豪の夫になったというだけでも凄いことなのに、世界一のロックスターや世界一の権力者からめったに聞けない秘訣を探り出した手腕を余すところなく世に伝えたいのだという。
「と言われても僕は字が書けないし、パソコンも打てないから」
無理だと断ったが、諦める様子はなかった。
「インタビューに答えていただければ、こちらで字を起こします」
外堀を埋めるつもりのようだった。
「そう言われても……」
披露宴の最中だからこれ以上付き合えないと突き放したが、彼は電卓を取り出して何やら打ち込み始めた。
「単価2,000円で、初版印刷が1億部、印税率を20%とすると、400億円になります」
「はっ?」
一瞬息が止まったが、彼はそんなことを気にする様子もなく、世界には飼い犬が5億頭ほどいて、飼い主の2割ほどが買えば1億部になるので、売り切る自信があると余裕の笑みを浮かべた。
そして更に、「今まで犬のロールモデルはいませんでした。だからこそ、フランソワ様のご経験を世に出さなければならないのです。というか、これはトップに立った方の義務なのです」と迫ってきた。
内堀も埋められてしまったような気になった。
義務と言われて断るのは難しかった。
それに、400億円が入ってくれば呂嗚流と椙子の財団に寄付ができる。
世界の愛と平和と未来に貢献できるのだ。
「わかりました。よく考えてみます。だから一日だけ時間をください」
「承知いたしました。良いお返事をお待ちしております」
男は頭を深く下げてから背を向け、招待客の中に紛れていった。
「コングラチュレーション!」
笑みを満面に浮かべた呂嗚流がグラスを上げた。
「コングラチュレーション!」
皆もグラスを上げた。
美家の広大な庭園で催された披露宴は喜びに包まれていた。
「綺麗ね~」
純白のウエディングドレス姿に溜息が集まった。
「馬子にも衣裳ね」
羽織袴姿の新郎に忍び笑いが集まった。
「フランソワ、いい加減食べるのを止めてみんなと飲もうぜ」
呂嗚流が手を振った。
その時フランソワは結婚祝いとして送られてきた〈月の餅〉を食べるのに夢中だった。
それは富裸豚からの贈り物で、月に移送した自己中駄王と側近につかせた特別な餅だった。
しかし、食べ続けることは許されなかった。
「新郎が飲まないと盛り上がらないだろう」と、なみなみと注がれたビールグラスを強制的に渡されたのだ。
「一気にいこうぜ」
呂嗚流がグラスをカチンと合わせると、フランソワは一気に飲み干した。
うまい! この喉越しが、このキレが、
プハ~、たまらんぜ。
喉を鳴らすと、眩しすぎるほどの美しい笑みを湛えた椙子様が泡が盛り上がったジョッキを持ってきてくれた。
それを一気に飲み干すと、「その飲みっぷりが好きよ」と華やかなピンクのドレスに着替えた玉留がウインクと共に新しいジョッキを手渡してくれた。
「ワン♪」
絶好調になってまた飲み干すと、いきなり見知らぬ男がやってきて名刺を差し出した。
『偉犬伝出版社』と書かれてあった。
「世界一のお犬様になられたフランソワ様の伝記を出版させて頂きたいのです」
世界一の美女の愛犬から世界一の大富豪の夫になったというだけでも凄いことなのに、世界一のロックスターや世界一の権力者からめったに聞けない秘訣を探り出した手腕を余すところなく世に伝えたいのだという。
「と言われても僕は字が書けないし、パソコンも打てないから」
無理だと断ったが、諦める様子はなかった。
「インタビューに答えていただければ、こちらで字を起こします」
外堀を埋めるつもりのようだった。
「そう言われても……」
披露宴の最中だからこれ以上付き合えないと突き放したが、彼は電卓を取り出して何やら打ち込み始めた。
「単価2,000円で、初版印刷が1億部、印税率を20%とすると、400億円になります」
「はっ?」
一瞬息が止まったが、彼はそんなことを気にする様子もなく、世界には飼い犬が5億頭ほどいて、飼い主の2割ほどが買えば1億部になるので、売り切る自信があると余裕の笑みを浮かべた。
そして更に、「今まで犬のロールモデルはいませんでした。だからこそ、フランソワ様のご経験を世に出さなければならないのです。というか、これはトップに立った方の義務なのです」と迫ってきた。
内堀も埋められてしまったような気になった。
義務と言われて断るのは難しかった。
それに、400億円が入ってくれば呂嗚流と椙子の財団に寄付ができる。
世界の愛と平和と未来に貢献できるのだ。
「わかりました。よく考えてみます。だから一日だけ時間をください」
「承知いたしました。良いお返事をお待ちしております」
男は頭を深く下げてから背を向け、招待客の中に紛れていった。