『世界一の物語』 ~夢犬・フランソワの大冒険~
世界一のロックスター
        ~ 第一幕:露見(ろけん)呂嗚流(ろおる) ~

「鏡よ鏡、この世で俺よりカッコいいロックスターがいたら教えてくれ」
 鏡は答えた。
「呂嗚流様、この世で最もカッコいいロックスターは、あなた様です」
 絶好調だぜ! 
 両手の拳を握って空に向かって吠えた。
 
 世界一カッコいいロックスターの露見呂嗚流は、バカンス先のカナリア諸島で優雅な時間を過ごしていた。
 ラテン語で〈犬の島〉を意味するスペイン領カナリア諸島はスペイン本土から遠く離れた大西洋上に浮かぶ島々で構成され、ヨーロッパよりもアフリカ大陸に近い距離にある楽園だった。
 平均気温が20度前後で過ごしやすく、世界中のセレブが集まるリゾート地として、その名を馳せている。
 
 鏡を置いた呂嗚流はプライベートビーチのデッキチェアに体を預け、分厚い本を開いた。
 中世の先駆者について書かれた本だった。
 ロック界のパイオニアでありたいと常に考えている呂嗚流は、先駆者の知恵と努力を学ぶのに貪欲だった。
 
 読み始めようとして目を落とすと、優しい風が頬を撫でた。
 海からだった。
 誘われるように本から目を離した呂嗚流は、空の青を映したような美しい海を見つめて目を細めた。
 すると、遠くに白いヨットが見えた。
 優雅に漂っているようだった。
 それを見ているとなんだか眠たくなり、そのうち目を開けていられなくなった。
 夢の世界に入るのに時間はかからなかった。
 
 
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