『世界一の物語』 ~夢犬・フランソワの大冒険~
「次の年に両親から通帳を渡されたの。通帳を開けるとね、専属シェフの年収と同じ額が記帳されていたわ。1,000万円よ。凄くない?」
 凄すぎる!
「それから大学を卒業するまで毎年1,000万円が振り込まれたの。10年間で1億円よ。凄くない?」
 彼女はそのすべてを株式に投資したと言って、平然と言葉を継いだ。
「大学に入ったら自由な時間が増えたから、株主総会に積極的に出席したの。面白いわよ、株主総会。だって、社長の人間性がよくわかるんだもの。魅力のある人ない人、説得力のある人ない人、大局観のある人ない人、倫理観のある人ない人、本当によくわかるの。それでね、ダメ経営者の会社の株はすぐに売ったの。逆に素晴らしい経営者の会社の株は買い増ししたの。するとね、株価がどんどん上がって、卒業するころには資産が20億円以上になっていたわ」
 はっ? 22歳で20億万長者?
 ぶっ倒れそうになったが、玉留は平然とロマネ・コンティを飲み干し、50年を超えても味わいが進化すると言われているボルドー地区グラーヴの『シャトー・オー・ブリオン』を開けた。
 1957年ものだった。
 香り高くまろやかで、極上のコクが舌に絡む素晴らしいワインと評判の逸品なのだという。
 フランソワは香りを楽しみ、一口含んで噛むようにして飲んだが、うっとりする間もなく目がしょぼしょぼしてきた。
 ちょっと飲み過ぎたようだ。
 するとそれを察したのか、「眠たくなる前にいいことを教えてあげるわね。ポートフォリオって知ってる?」と顔を覗き込むようにした。
 
 
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