『世界一の物語』 ~夢犬・フランソワの大冒険~
 ドン、という音と共に飛行機が着陸した。
 最後まで揺れ続けたせいでコントロールが難しかったようだ。
 それでも無事に駐機場に辿り着いたので、フランソワの心は少し軽くなった。
 
「お待ちしておりました」
 蝶ネクタイをした正装姿の男性が玉留を出迎えた。
 玉留に続いてタラップを降りると、そこにはリムジン仕様のロールスロイスが待機していた。
 プライベート飛行場内を走るロールスロイスが向かったのは、ヘリコプターの発着場だった。
 
 車が止まると、そこに大きなヘリコプターが待機しており、既にローターが回っていた。
「プライベートヘリコプターよ」
 なんでもないように言ったが、蘊蓄は忘れなかった。
『EC225スーパーピューマ』というVIP用ヘリコプターで、国内の要人だけでなく、外国の首脳などの移動手段としても使われているのだという。
「木更津の駐屯地(ちゅうとんち)に司令部を置く陸上自衛隊に3機あるんだけど、個人で持っているのはあたしくらいかもしれないわね」
 そして、フランス製で、全長が約20メートル、全幅が約16メートル、最高速度が320キロで、20人が乗れる広さがあると蘊蓄を続けた。

 乗り込んで驚いた。
 レッドカーペットが敷かれてあるのだ。
 勿論シートは高そうな革張りだし、調度品はどれも最高級のものばかりだった。
 正に動く貴賓室(きひんしつ)といっても過言ではなかった。
「椙子さんの家までひとっ飛びよ。車や電車で移動するのは時間の無駄でしょ」
 余裕の表情で玉留がウインクを投げた。
 1秒のスピードアップか、いや、そんなレベルではない! 
 感心していると、「時間はお金で買うのが一番よ」と平然と言ってのけた。
 すると、さも当然のように爆音を発してヘリコプターが飛び立った。
 
 
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