『世界一の物語』 ~夢犬・フランソワの大冒険~
 凄い……、
 深海へ向かう超大型移動船の窓から深海魚を見ながら、フランソワは驚嘆の息を吐いた。
「我が国の独自技術で建造した世界最大の海中移動船じゃ」
 富裸豚は鼻を高くした。

 独自技術……、
 露見呂嗚流や是仁久留玉留に続いて富裸豚までも同じことを口にした。
 三人には共通点がある、そう確信したフランソワは、慎重に言葉を選んで聞き上手作戦を始めた。
「富裸豚覇王様は世界最強の権力をお持ちと伺いました。その権力を何にお使いになるのですか?」
 すると、マッサージを受けてソファで気持ち良さそうにしていた富裸豚が突然立ち上がった。
「権力は国民の幸福実現のためだけに使う」
 予想外の返事だったが、更に続けて、「己の力の誇示のために使ってはならない」と吠えた。
 そして、断固とした響きのある声で「己を無にできない者は権力を持ってはならない」と言い切った。
 力と金を誇示する太鼓腹の好色オヤジというイメージとは程遠い発言に戸惑いながらも、フランソワは言葉を継いだ。
「世界は領土拡大や影響力行使に意欲を燃やす権力者ばかりですが」
 富裸豚は寂しげに頷き、「自らの手柄のために権力を行使する愚か者ばかりじゃ」と大きな溜息をついた。
 その後は長い沈黙が続いたが、いたたまれなくなったフランソワを救うかのように、侍従の声が耳に届いた。
「まもなく到着いたします」
「うむ。この話の続きはディナーのあとでな」
 富裸豚は王の衣装に着替えるために衣装ルームへと向かった。
 
 
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