『世界一の物語』 ~夢犬・フランソワの大冒険~
「アルマニャックでもどうじゃ」
 フランソワが頷くと、黄金で装飾されたブランデーグラスが運ばれてきた。
 富裸豚は琥珀色の液体に鼻を近づけてしばし香りを楽しんだあと、惚れ惚れとしたような声を出した。
「コニャックも悪くはないが、アルマニャックはまた格別なんじゃ」
 促されたフランソワは両足で温めたあと、口に含んで舌の上で転がした。
 すると、上品な香りが鼻に抜けて熟成した甘さが口の中に広がった。
 そのまろやかな味わいにすべてを忘れそうになったが、ハッとして富裸豚に向き合った。
「先ほどの続きですが」
 大型移動船での続きを促した。
 すると富裸豚は意外なことを口にした。
「赤字は悪じゃ!」
 えっ? 
 赤字って……、
「日本は借金大国と聞く。毎年赤字を垂れ流し、その借金総額は1,200兆円を超えているというではないか」
 確かに、そのことを報じたニュースを見たことがある。
「日本の去年の収入は税収が主で約79兆円、それに対して支出は約114兆円。引き算をしたらどうなる?」
 79ー114だから、えーっと、マイナス35か。
 心の中で呟いていると、それが伝わったのか、富裸豚は相槌を打ってから質問を繰り出した。
「そうだ。35兆円の赤字だ。それを国債で埋めている。つまり借金だ。借金をしたらどうなる?」
 お金を借りたら利子を払わないといけない、
「そうだ。その利払いに約8兆円払っている。8兆円だぞ! それがどんどん増えて10兆円、15兆円になったらどうする、考えただけでもゾッとせんか?」
 富裸豚は何度も頭を振ったあと、フランソワの目を覗き込むように顔を近づけた。
「お主が会社の社長だとする」
 えっ、
 僕が社長? 
 いきなり何を言い出すの? 
「その会社が大赤字を出したらどうなる?」
 そりゃあ、大赤字を出せば、そして、それが続いたら社長は間違いなくクビでしょ、
「そうだよな。なのに歴代の首相や財務大臣はなぜ首にならない?」
 ん? 
 会社と国は別物だから?
「そんなことはない。組織という意味では一緒だ。収入と支出、黒字と赤字、全部一緒だ」
 でも、国債残高が増えても日本は潰れないと言っている政治家もいるけど……、
「知っておる。日本の国債のほとんどは日本人が買っていて、それもすべて円で買っているから、満期になって返済が必要になったらお札をどんどん刷って買い取ればいいだけの話だって言っているんだろ」
 富裸豚は理解できないというように両手を広げた。
「お札を刷ればいくらでも借金できるって、そんなことあるのかね? 借金が2,000兆円になっても3,000兆円になっても日本銀行がお札を刷り続ける限り日本は潰れないなんて信じられるか?」
 確かに。
 日本はどうなっちゃうんだろう? 
 借金地獄に陥って潰れちゃうのかな? 
 でも世界第4位の経済大国が潰れたらどうなる? 
 大変なことになるぞ。
 世界大恐慌が勃発するんじゃないの?
 フランソワは顔から血の気が引くのを感じて、正常ではいられなくなった。
 そんな様子を察したのか、富裸豚が一人の男を呼んだ。財務大臣だった。
 
 
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