『世界一の物語』 ~夢犬・フランソワの大冒険~
「日本が今後持続的な成長ができるかどうか、それが大きなポイントだと思います。つまり、名目GDPが増え続けることが大事なのです」
 GDPって、国内総生産だっけ?
「そうです。個人消費と民間投資と貿易収支と政府支出の合計が名目GDPになりますので、日本が成長するためには、個人が消費を増やし、企業が投資を増やし、輸入以上の輸出を実現することが必要になります。それを実現するために仕事や雇用を増やす目的で政府が支出する分にはなんの問題もないと思います」
 借金が増えても?
「そうです。名目GDPが増えていけば、つまり、プラス成長が続けば、当然のことながら税収が増えます。そうすると、財務体質の改善が図られるのです。逆に言うと、赤字国債という借金を減らすためには、GDPと税収を増やすしかないのです」
 卵が先か、鶏が先か、
「もし日本がまたデフレ状態に戻ってGDPがマイナス成長に陥ると、どうなると思いますか?」
 さっきの話だと、個人消費が減り、企業の投資も減り、貿易赤字になり、日本の国力が落ちていく……、
「不景気なんだから公共事業も減らせという意見が強くなって政府の支出も減ると、悪性のデフレになる可能性が出てきます。そうなると、もう手遅れです」
 どうなるの?
「円建ての国債発行に限界がくれば、大幅な増税しか手段が無くなります。それでも金が足りなくなれば、外貨建ての国債発行に踏み切ることになります」
 それって、あの時のギリシャと同じ……、
「日本は少子化によって人口が減っていきます。半面、高齢者比率がどんどん高くなっていきます。つまり、生産人口が減る中で社会福祉関連費用が大幅に増えるという未曾有(みぞう)の事態を迎えるのです。それでも成長をしなければなりません。成長が止まれば、地獄の悪循環が始まるからです」
 はっ? 
 なんか凄いこと言ってない? 
 地獄の悪循環? 
 気絶しそう……、
 日本はどうなっちゃうの?
「現状をしっかり認識することが重要です。辛いかも知れませんが、日本が置かれている厳しい現状から目を逸らしてはいけないのです」
 それはそうだけど……、
 で、どうしろっていうの?
「先ず、人口減少に歯止めをかけなければなりません。そのためには、若者が子供を産み育てる環境を整備しなければならないのです。低賃金を余儀なくされている非正規社員は結婚を諦めている人が多いですし、結婚できたとしても子供を産み育てる余裕はありません。そんな状況だから出生数が減っているのです。だから、非正規社員をゼロにするための法改正を早急に行う必要があります。更に、男女平等賃金を実現するのは勿論のこと、技術革新による働き方改革を行って男性の育児参加を促す必要があります。と共に、子供を産み育てたいと願っている人たちに対して、出産や育児へのきめ細かな支援をしなければなりません。それも、今すぐに」
 確かに。
「一方、直近の課題である生産人口の減少を食い止めるためには、女性と高齢者の労働参加が必要です。特に人生100年時代と言われている今日、60歳や65歳で定年を迎えるという考え方を根本から見直す必要があります」
 そうだよね。最近の高齢者は元気だものね。
「再雇用制度も見直すべきです。60歳で一旦退職して再雇用された場合、同じ仕事をしているのに給料が半分以下になるのはどうみてもおかしいと思います。給料が変わらないまま70歳まで働けるようにすべきだと思います」
 いいね、いいね!
「給料が安定し、老後の心配が減れば、個人消費が確実に増えます。所得と消費が増えれば税収も増えます。当然のことながら国の財政にもプラスになるのです」
 そりゃそうだ。
「それに、働くことによって社会に貢献し、生き生きとした毎日を送ることができれば健康にもプラスに働きます。そうなれば、医療や介護などの社会福祉費の増大に歯止めをかけることができます」
 正に一石二鳥! 
 日本の政治家さん、企業経営者さん、よく聞いてよ。
 ちょっと気持ちが前向きになってきたフランソワは、嬉しくなって鼻唄が出そうになった。
 富裸豚も同じだろうと思って顔を覗き込んだが、彼の顔は曇っていた。
 
 
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