『世界一の物語』 ~夢犬・フランソワの大冒険~
「リーダーシップ、それは、統率力とも言われておるが、その真の意味を理解していない輩がなんと多いことか」
 一転して富裸豚の顔が曇った。
「組織のトップに立って命令することだと勘違いしている愚か者が多すぎるのじゃ」
 厳しい顔になった。
「権力を持った途端、自らの力を誇示するかのような言動を始めるリーダーのなんと多いことか」
 苦々しく言い放った。
 それはフランソワも同感だった。
 そんなタイプのリーダーが最近増えているように感じていた。
「国なら国民を、会社なら社員を幸せにすることがリーダーの務めなんじゃ。なのに、己とその家族、取り巻きを幸せにすることばかり考えている輩が多すぎる」
 フランソワは、富裸豚が指摘したレベルの低いリーダーを何十人も思い浮かべることができた。
「リーダーに必要な最大の要素は滅私奉公であり野望ではない。だから、力と富を誇示したいと考えている人物はリーダーになってはならんのだ」
 その通りだと思った。
 しかし、そんな清廉潔白(せいれんけっぱく)な人物がいるのだろうか?
「人は誰でも己が可愛い。そして、欲を持っておる。その欲が良い方に働けば自己の幸福と組織の幸福、そして、社会の幸福が一致する。日本にも良い言葉があるじゃろ。『三方よし!』という言葉が」
 近江商人か、
「しかし、その欲が悪い方に働けば、自己の幸福と組織の幸福が矛盾するようになる。それは社会の幸福とも相反(あいはん)することになる。政治家だったら収賄(しゅうわい)便宜供与(べんぎきょうよ)などに繋がり、経営者だったら売上や利益の水増し、データ改ざん、着服などに繋がる。そして、リーダーによるパワハラ、セクハラ、マタハラもその流れの延長線上にある」
 う~ん、確かに。最近そんなニュースが多いな……、
「コンプライアンスという言葉をよく耳にするが、言葉だけが独り歩きして本質を理解していない輩が余りにも多いのは、本当に嘆かわしい」
 そう言われると僕もその一人かも……、
「倫理観を持つことの重要性を理解せねばならない。それは、法律を守るという受け身の姿勢ではなく、『積極的に正しいことをする』という能動的な意志から生まれる」
 電柱にオシッコをする僕には倫理観はないかも……。
 でも、散歩に連れて行ってくれる椙子様や軽子が水をかけてくれているから大丈夫かな?
「これをしちゃダメ、あれをしちゃダメと言われて大きくなった人間には本当の倫理観は育まれない。小さな頃だけでなく、学校を卒業して社会人になっても、会社から違反事例を叩き込まれて、これをしちゃダメ、あれをしちゃダメと言われ続ける。それでは積極的に正しいことをするという能動的な意志は生まれない。だから、幼少期における両親や教師、社会人になってからの上司や経営者の責任は重いんじゃ。わかるか?」
 なんか道徳教育みたいになってきたぞ。
 大事なことだけど、このままではちょっと……、
 フランソワは話の流れを変えようと試みた。
「倫理観や積極的に正しいことをする能動的な意志の重要性のご指摘に感服いたしました。僕も常に意識してまいりたいと存じます。そこで一つ質問がございます。高い倫理観と積極的に正しいことをする能動的な意志を持って、覇王様は何を為されたのですか?」
 すると富裸豚が誇らしげな表情を浮かべた。
「国民の将来不安を取り除いたのじゃ」
 ん? 
 どういうこと?
 思わず首を傾げたフランソワに、富裸豚の説明が続いた。


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