『世界一の物語』 ~夢犬・フランソワの大冒険~
「信じられない」
 ロンドンを発ってニューヨークへ向かうプライベートジェットの中で、椙子の興奮はまだ続いていた。
 本物のポールに会えたことが現実のこととは思えなかった。
「長い付き合いだからね」
 呂嗚流はさり気なく言ったが、椙子にとっては奇跡以上の出来事だった。
「やっぱりあなたって凄いわね」
 夢見る瞳で呂嗚流を見つめた。
「それに、あんな約束をしてくれるなんて」
 プロモーションへの協力を快諾してくれたことにも興奮を隠せなかった。
「彼はとてもいい奴だからね。それに、君の使命に共感してくれたんだよ」
 椙子は、二つ返事でOKしてくれた上に、手を握られた時の感激を思い出した。
「嘘みたい……」
 呂嗚流にもたれかかって、彼の手を握った。

 空港に着いて向かったのは、マンハッタンの東部だった。
「ここだよ」
 目的地に着いてリムジンを降りた椙子は、思わず見上げてしまった。
 それほど高くそびえる建物だった。
 国連事務局ビル。
 39階建てだという。
 その横には、白くて横長いビルがこれまた威容(いよう)を誇っていた。
「国連って……」
 椙子は次の言葉が出てこなかった。
 余りにも場違いな気がしたからだ。
 ここでアルバムジャケットの撮影をするなんて、何かの間違いではないかと思った。
 しかし、間違いではなかった。
 ビルの中に入った呂嗚流は、なぜ国連で撮影するのかを静かに語り始めた。
 
 
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