『世界一の物語』 ~夢犬・フランソワの大冒険~
「人類は何度も大きな過ちを繰り返した。侵略を重ねて殺戮(さつりく)を続けた。血に飢えた独裁者たちがこの世を汚し続けた。しかし、第一次世界大戦が終わった時、このままではいけないと、国際連盟を立ち上げた。それなのに、設立を提唱したアメリカが上院の反対で参加できなくなり、革命直後のソビエトや敗戦国のドイツも参加できず、骨抜きとなった国際連盟は『戦争の防止』という目的を果たせなくなった。そのため、第二次世界大戦を防ぐことができなかった。間違いを繰り返すことになったんだ」
 そこで大きく息を吐いて天井を見上げた。
 その目には、悔しさがにじんでいるように見えた。
「第二次世界大戦が終わった時、今度こそ平和な世界を作り上げなければならないと、機能不全だった国際連盟の反省を踏まえて国際連合を設立した。今では世界のほとんどの国が参加するまでになった。しかし、戦争は終わらない。世界規模の戦いには至っていないが、あちこちで紛争が起こり、侵略が行われている。毎年多くの人が犠牲になっているんだ」
 そして、対立する二つの陣営が国連安保理事会を機能不全にしていると嘆いた。
「政治家たちは本気で平和な世界を作ろうとしているのだろうか? 俺は疑問に思うことがある。自国の利益を最優先して協調による平和や安全の構築を後回しにしているとしか思えない」
 大きく首を横に振った。
 しかし、このままにしておくわけにはいかないと、強い決意を漲らせた。
「俺は政治家でも役人でもないから国連の場で発言することも行動することもできない。それでもやれることはある。平和を願い反戦を訴えることはできるんだ」
 それを実践してきたミュージシャンの名を挙げた。
 ピート・シーガー、
 ピーター・ポール&マリー、
 ジョーン・バエズ、
 ボブ・ディラン、
 ビートルズ、
 ジョン・レノン、
 ジョージ・ハリスン、
 ローリング・ストーンズ、
 ジミ・ヘンドリックス、
 ブルース・スプリングスティーン、
 スティング、
 ニール・ヤング、
 それ以外にも数多くのミュージシャンが声を上げたと力説した。
「『ペンは剣よりも強し』という言葉があるけれど、『歌は武器よりも強し』と俺は思う。独善に立ち向かう力があるからだ。抗議する力があるからだ。人々を動かし気持ちを一つにする力があるからだ」
 そして、「俺は信じる、音楽の力を」と言い切って、椙子の背中を押した。
 アルバムジャケットの撮影をする場所へ移動するという。
「どこへ行くの?」
 詳細を聞かされていない椙子の声が緊張で震えた。
「行けばわかるよ」
 呂嗚流は椙子の肩を優しく抱いた。


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