血管交換シヨ?
「入って」

鞄の内ポケットから取り出した鍵でドアを開けて
ツキくんは微笑んだ。

玄関も、やっぱりその先も真っ暗で
シン、と静まり返っている。

「お邪魔します」

「泊まって行っても大丈夫だから。この前の″お泊まりセット″、残ってるし」

「いじわる」

ニッて口角を上げたツキくんに
スズは頬を膨らませて応える。

「俺さぁ、スズに嘘ついたんだよね」

リビングには立ち寄らないで、
ツキくんは階段を登っていく。

その背中を追った。

「嘘、って?」

「この前さぁ、親だけで帰省してるって言ったじゃん」

「うん」

「あれ。嘘なんだよね」

「そ…っか…?なんでそんな嘘ついたの?」

「″メチャクチャ″なこと、まだスズに知られたくなかったんだと思う」

「メチャクチャって?」

「母さんは彼氏のとこ。父さんも愛人のとこにでも行ってんじゃないかな」

「え…」

「家庭内別居ってやつ?もう中学の頃から。俺が高校出るまでは夫婦を装うつもりらしいけど。婚姻関係続ける意味もないのにな。母さんは養育費さえ取れたら満足なんだろうし」

「家にっ…」

「ん?」

「なんでもない…」

「なぁに。ちゃんと言って?」

「……家に、どうせ居ないのなら概念みたいな形だけ取り繕っても意味ないのにって…思っちゃって…ごめんなさい」

「スズの言う通りだよ」

ベッドに腰を下ろしながら
ツキくんはなんとも思ってなさそうな顔で、
だけど渇いた音で笑った。

「ツキくん」

「おいで」
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