血管交換シヨ?
デスクの上の、
ツキくんが小説を書いているノートパソコンが視界に入る。

ツキくんはスズに生も死も握らせてくれるって約束してくれた。
でも本当はツキくんの生も死も握っているのは
スズなんかじゃないってことも解っている。

ツキくんの生死を握っているのは
小説だけだ。

小説の中で呼吸をして
もがいて窒息死する。

小説に生かされて
小説に殺される。

スズが言った、ツキくんに生死の決定を下す理由も
″小説″なんだから。

スズは言った。

「ツキくんが生きて小説を書き続けたいのならツキくんがどんなに苦しんでたってスズだって一番にツキくんの小説を愛するよ。でも、もう小説はいいんだって。もう大丈夫って日が来たら一緒に死のう?スズが全部終わらせてあげる」、って。

ツキくんは気づいていない。

本当はスズに生殺与奪の権利なんかなくて、
まだ生きて小説を書き続けたいって願うのも、
夢が成就して、もう大丈夫、もう十分だって日が来たら、もう苦しい日々を終わらせようって、
それをスズに委ねる″感情″の持ち主は、紛れもなくツキくんだけなんだから。

本当の決定権はツキくんの中にだけある。

だけどツキくんは優しくて、ずるくて、臆病者だ。

きっと一人で決めるのは怖くて
小説を手放してしまう勇気もなくて、

だからスズの承認欲求とツキくんの中での利害が一致したんだ。

ツキくんとスズは
家族でも、恋人でもない。

″友達″だと言ってしまえるほど、
ライトな関係でもいられない。

スズはツキくんにとっての命綱。
そんな大それたことまでは言えなくても
二人だけが理解できるとびきりで繋がっていようよ。

誰の理解も及ばない尺度で。

二人だけの地獄で。
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