血管交換シヨ?
ようやくちゃんと目覚めたツキくんに
今朝の「大丈夫だよ、事件」を話したら、
ツキくんはやっぱり憶えていなかった。
夢を見ていたかどうかすらも。

「変なツキくん」

「スズが泣いてる夢でも見てたのかなー」

「違う女だったらどうしよう?」

「でも″スズ″って呼んでたんでしょ?」

「うん」

「じゃあ安心しなさい」

「はぁーい」

ブランケットにくるまったままで何度かキスを繰り返して、
ツキくんはベッドから出ていってしまった。

「歯磨きしてくるー」

「あ、ずるい。スズも」

階段を降りていくツキくんについていきながら
「同棲みたいだね」なんて言ってみたら
前を向いたままのツキくんから笑い声だけが返された。

歯を磨いて、顔を洗って、
ツキくんに借りたTシャツとハーフパンツのまま、
またツキくんのお部屋に戻った。

毎朝の(って言っても、もうすぐで正午になりそうだけど)ルーティーンなのか
ツキくんはデスクのパソコンと向かい合った。

小説を書くのかな。
邪魔しちゃいけないからスズは、
ツキくんの本棚から小説を選んで、読ませてもらうことにした。

真っ白の表紙。
赤いタイトルの文字が印象的だった。
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