血管交換シヨ?
三十分くらいしてから、
ツキくんは耳からワイヤレスイヤホンを外した。

小説を書きながら音楽も聴けるなんて器用だ。
歌詞までは聴き取れなくても
周りの環境音が遮断されたほうが集中できるのかもしれない。

「できた」

言いながらツキくんは両腕をグッと天井に向かって伸ばした。
気持ち良さそうに背伸びをする表情は
日向ぼっこ中の猫みたいだ。

「小説?早いね」

「短編。一ページだけの。送ったから読んでみてよ」

「え?」

送った、って言われて、
ツキくんからスズへの送信先はメッセージアプリしか思いつかなくて
スマホを手に取る。

アプリには確かにツキくんからのメッセージが届いている。
添付ファイルを開いてみると、
縦に規則正しく並んだ文字達が視界に飛び込んでくる。

「これ…」

「スズは俺の小説、呼んだことないだろ?いきなり長編を読むのはしんどいかもなって。だから超短編書いてみた。サンプルです」

「読んでいいの?」

「もちろん。その為に書いたんだから」

嬉しい…。
どう言葉にしたらいいのか分からない。

これってスズの為って思っていいんだよね?
一番大切にしている小説を、スズの為に書いてくれたんだよね?

こんなに幸せなこと、想像すらもできなかった。
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