血管交換シヨ?
「ツキくん」

「んー?」

「好きかも」

「本?」

「ツキくん」

「えーっと…うん?」

「……やっぱなんでもないかも」

「……うん」

スズ、今…なに言った?
ツキくんに一体なにを言ったの?

これが小説なら、作家が勝手に書いた台詞なら
バックスペースで跡形もなく全部きれいに消せるのに。
記憶ごと、全部。

それにやっぱりツキくんはズルい。
スズがツキくんを「推している」ことを解っていて
「着たいだけでしょ」なんて言って笑うくせに
「好き」の気持ちには知らないふりするんだもん。

遠くのほうでホイッスルの音が鳴り響いた。
空も突き抜けていけそうなくらい、高い音だった。

「集合時間だね」

「うん。スズ、あのさ」

「ん?」

さっきの、自分でも意味不明な言葉を追求されてしまうのかと思って身構えた。

ていうか、そもそも好き″かも″なんて予防線張っちゃってさ。
大好きなくせに。弱虫め。

不安なスズを、ツキくんはまた見透かしたような、
だから安心させるようなやさしい目で笑った。

「小説、読んだら感想聞かせてよ」

「うん。分かった」

「約束な?」

「うん」

ツキくんはやさしい。どこまでも。
ツキくんが大好き。絶対に。

でもスズはこの気持ちを言葉にしちゃいけないんだ。
誰にも知られちゃいけない。

倫理観。

美桜ちゃんが言った言葉が脳内を駆け巡る。

モラル。
大好きな人を困らせない為の、まるで呪詛。

スズがいい子でいれば
他人の恋を守れる。

でも、もう
…もう、スズにはその自信がなかった。

ツキくん。
スズの″好き″に聞こえないふりしないで。

お願い。
スズの為だけにツキくんの恋を捧げて…。
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