血管交換シヨ?
「あれ。美桜ちゃん達は?」

「あっち」

ツキくんが振り返った先では
美桜ちゃんと中原くんが、また別のアクアリウムに釘付けになっている。

スズ達が見ている海月よりも丸っこくて小さい海月。
海月ブースの演出の影響で
美桜ちゃんも中原くんもなんとなく(あお)く見える。

隣のツキくんはそんな風には見えない。
距離が近いから、肌がよく見えるから?

なんとなく照れくさくなってしまって
ツキくんから目を逸らしてしまう。

「いいの?美桜ちゃんのとこ行かなくて」

「なんか中原がやたら海月に詳しくてさ」

「そうなの?」

「美桜もやっぱり好きみたいで。中原がずっと熱弁してるから俺はイチ抜けです」

「熱弁、聞いてあげればいいのに」

「そんなのはね、どーだっていいの。俺は」

「なんで?」

「きれいなもんはきれいでいいじゃん。必要な時もあるよ?でも今はさ、ただのんびり眺めてたいの。脳死してさ。ただボーっとね」

「そうだね」

「せっかく涼みにきたのに。頭遣いたくないしー」

ニッて笑うツキくんの笑顔。
大好き。

でもスズもたった今、ツキくんに名前の由来を聞いてしまったばっかりだ。

そんなことを思っていたら
ツキくんがちょっと首を傾げてスズの顔を覗き込んだ。

びっくりして一歩、横にズレたスズに、
ツキくんは「名前のことはいいからね?」って言った。

「え?」

「説明させられたとか思ってないからね?」

「え…っと…うん、ありがと」

「海月っていうか、どうせスズは俺と混在して気になってんでしょ」

ちょっと目を細めて余裕そうに微笑むツキくんを
もう見ていられなくて海月に視線を戻した。

ずるい。
やっぱりずるいよ。

なんでそんなこと言うの。

「ていうかスズが一人で観てるから。迷子になられても困るしー」

もう、ツキくんの言葉は聞こえないふりをした。
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